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City of Love: Paris

City of Love: Paris

"生きているキャラクターを見つめながら対話をする" という視覚的体験を提供したい
Ubisoft

※現在はサービスを終了しております。

Ubisoft

Ubisoftは数多くのAAAタイトルをリリースしてきたフランスのグローバルなゲーム企業だ。
そんなUbisoftが2017年2月、スマートフォン向けのナラティブ(ストーリー性の高いアドベンチャー)ゲーム「City of Love: Paris」(Android, iOS)をリリースして業界を驚かせた。ナラティブゲーム自体はこれまでにもたくさんのタイトルがリリースされてきたが、City of Love: Paris は、緻密に作り込まれたビジュアルとストーリーのクオリティで他と一線を画している。
2017年3月、プロデューサーであるBarnabé Anglade氏に、このゲームの成り立ちや開発中に直面した課題、そして今後について伺った。 (Interview by Live2D Inc. | May 22, 2017)

— Ubisoftがスマートフォン向けのナラティブゲームを出すというのは驚きでした。このプロジェクトはどのように始まったのですか?

Barnabé Anglade氏: City of Love: Paris のプロジェクトは2015年の11月に始まりました。私はかねてから、ストーリーに重きを置いたゲーム、それもシンプルな構造でありながら価値の高いものを作りたいと考えていました。そして、その明確な目標に向かってモチベーションと情熱をもって取り組めるメンバーを集めてチームを作りました。私たちUbisoftのクリエイターは、目標設定も含めクリエイティブな方向性についてはとても大きな自由を与えられています。しかしその自由度は、対象として選んだ市場においてユーザーに選ばれるゲームを提供できることを前提に与えられているので、対象市場の選択とその中での位置付けは慎重に決めました。

まず、ゲーム市場を観察する中で、このナラティブゲームのジャンル、特に女性を対象したものに将来的な市場性を見込んでいました。そして先行しているタイトルのほとんどがアートやストーリーの部分でのクオリティが低い点にも着目していました。このゲームをどんな位置付けにするべきか、慎重に検討した結果、乙女ゲームのような恋愛ものではなく、西洋スタイルのアドベンチャーをストーリーの軸として、そこにロマンスの要素が絡んでくる展開にしました。そしてアドベンチャーの舞台にはパリを選びました。それは、世界中の多くの人がこの街に魅力を感じていることを知っていましたし、住人としてこの街を愛する私たちなら、この街の様々な表情をゲームを通じて見せられると考えたからです。このような検討のプロセスの中で、将来性のある市場において、他のゲームと差別化できるという自信を深めていきました。

— 確かにこのゲームは細部まで作りこまれ、非常にクオリティが高いと感じます。特にアートスタイルが印象的ですが、なぜこのアートスタイルを選んだのですか?

Barnabé Anglade氏: 基本的にはチームメンバーの強みを活かせるアートスタイルであることが前提なのですが、まず最初にフォーカスしたのはキャラクターと背景です。検討を進める中で、ドイツ人アーティストのCelia Kasparさんの作品と出会い、そのアニメとリアリスティックが絶妙にミックスされたスタイルに直感的に惚れ込んだ、という感じでした。彼女に直接コンタクトしたところ、彼女も我々のプロジェクトに共感してくれてチームに加わってくれました。

いっぽう、そんな私たちの直感が、市場に受け入れられるかも冷静に確かめたいと思っていました。Ubisoftの素晴らしいところは、「消費者調査部」というチームがあって、プロジェクトが正しい方向に向かっているか、消費者理解の視点から検証するのを手伝ってくれます。そこで、Celia Kasperさんにお願いして、我々が惚れ込んだオリジナルのデザインコンセプトに加え、別のスタイルで描かれたデザインコンセプトを二つ用意しました。一つはよりアニメっぽいもの、そしてもうひとつはよりリアリスティックなタッチなものです。消費者調査の結果は、オリジナルがもっとも良いものだったので、正直すごく嬉しかったですね(笑)

コンセプトアート

リソースも少ない小さなチームですが、このゲームを遊んでくれる一人ひとりのプレイヤーに、選択に応じたユニークな物語体験を、クオリティの高いアートと共にお届けする

— Ubisoftでは現場のチームにクリエイティブな自由を与えつつ、プロジェクト成功の可能性を高める体制があるのですね。ちなみにテストプレイ(試遊会)は実施しましたか?

Barnabé Anglade氏: はい、消費者調査で方向性を固めたあとゲームのプロトタイプを開発して、カナダのHalifaxにあるUbisoftの女性スタッフ20名を対象にテストプレイを実施しました。カナダで行った理由は、このゲームのメインターゲットが北米の女性である点や、文化間で異なるロマンスの捉え方についての反応を見るためです。

このテストプレイでは、テスターがゲームを遊ぶ様子を撮影し、遊びながらリアルタイムにフィードバックをしてもらい、遊んだ後にもインタビューで感想を聞くという形式で行いました。結果としては、アートやアニメーションの部分についてはとてもポジティブな反応で、自分たちの方向性について自信を深めることができました。いっぽうで、登場するキャラクターを突き動かすストーリーの力、プレイヤーをストーリーに引き込む力が弱い、という批判が全てのテスターからの一致した反応でした。意図的に「ライトなストーリー」にしていたのですが、このテストプレイで得られた反応が、その後ストーリーを改良していく上での重要な指針となりました。このテストプレイから数ヶ月をかけて何度も改良を繰り返した後、アイルランドでのオープンベータ、カナダでのソフトローンチ、そして正式リリースと、その都度ストーリーを良いものにしていきました。

— 冒頭から引き込まれるストーリー展開ですよね。これは実話や原作に基づいているのでしょうか?

Barnabé Anglade氏: いえ、オリジナルのストーリーです。ただ、繰り返しになるのですが、このゲームではロマンスの要素を絡めつつ、パリという舞台でのミステリー解決を軸にストーリーが展開していくので、そんな中でプレイヤーが色々と連想できるポイントはたくさん散りばめています。そして各エピソードに一箇所、その後の展開を決定づける難しい選択を設定しています。プレイヤーがどんな選択をするかがキャラクターとの親密度やゲットできるお土産(スーベニア)に関わってきます。私たちのチームは、Ubisoftの中ではリソースも少ない小さなチームですが、このゲームを遊んでくれる一人ひとりのプレイヤーに、選択に応じたユニークな物語体験を、クオリティの高いアートと共にお届けするということをとても大切にしています。

選択に応じたユニークな物語体験

キャラクターデザインの段階では、それがアニメーションに向いているかどうかは全く考えませんでした。

— まさに狙い通りに仕上がっている印象ですが、実際リリースして、ゲームへの評価や売上パフォーマンスについてはいかがですか?

Barnabé Anglade氏: まずパフォーマンスについては、アクティブユーザーの数でもエンゲージメントの度合いでも良いスタートがきれています。このゲームの収益モデルはエネルギー消費と連動したとてもシンプルなものなので、今はその状況からプレイヤーがどんな風にゲームを進めているのか分析しているところです。

ゲームの内容に対する評価は非常に高く、特にアートとアニメーションについては良い反応です。通常、プレイヤーがアニメーションについてコメントしてくれることはほとんどないのですが、このゲームのレビューでは、本当にたくさんのプレイヤーがキャラクターの動きを褒めてくれて『そこにいる感じがする』と言ってくれたりします。これは、このゲームにとってアニメーションが、ちょっとしたプラスではなく、大きな付加価値になっている証だと思います。

— このゲームのアニメーションは動きが繊細なのですが、それが全体の雰囲気にうまく溶け込んでいてとても効果的ですよね。キャラクターをデザインする際はアニメーションを前提として描いたのでしょうか?あるいはキャラクターを描いた後でアニメーションについて考えたのでしょうか?

Barnabé Anglade氏: 繰り返しになりますが、キャラクターについては、まず私たちがCelia Kasperさんのスタイルに惚れ込んだところが始まりです。キャラクターデザインの段階では、それがアニメーションに向いているかどうかは全く考えませんでした。ただ、アイドルモーションが大事になることは初めから予想していました。というのも、このゲームのプレイヤーには、選択肢に迷ったり、キャラクターと見つめ合ったりしながら、とにかくキャラクターとたくさんの時間を過ごして欲しいと考えていたからです。その時に「静止したキャラクターを見ながら台詞を読む」という読書的体験ではなく、「生きているキャラクターを見つめながら対話をする」という視覚的体験を提供したいと考えていました。限られたパターンが予想できてしまうリアクションモーションではなく、キャラクターのその時々の感情を反映する「力強い」アイドルモーションがあれば、キャラクターが話していない時でも、そこに存在感をもって佇んでいるようにできるという狙いです。

そんな視点でアニメーションツールを調べている中でLive2D Cubismを知ったのですが、この技術にナラティブゲームというゲームジャンルの水準を引き上げる可能性を感じました。そして他社の採用作品、特にファイヤーエンブレムの動きを研究した上で、私たちのキャラクターでテストしてみました。最初のテストは、正面向きのキャラクターに呼吸や目線移動といったごく簡単な動きをつけただけのものだったのですが、それを見た瞬間『これこそ、僕たちのゲームに必要なものだ!』という感じでしたね。

生きているキャラクターを見つめながら対話をする

特にLive2D Cubismについては、我々のアートスタイルにフィットするか不安でした。

— ゲーム全体の開発プロセスはどんなものだったのですか?技術的な課題などはありましたか?

Barnabé Anglade氏: 開発については、アートとストーリーに集中できるよう、使う技術の範囲を広げないように意識はしていました。なのですが、その通り開発が進んだわけでは決してありませんでした(笑)。パリのUbisoft studioとしては、通信要素の多いゲームを作るのは初めてでしたし、ナラティブというジャンル、Unityを使った2Dゲーム開発、Live2D技術、どれも初めてのことばかりでしたので。

特にLive2D Cubismについては、我々のアートスタイルにフィットするか不安でした。実際、斜めの角度で描かれたキャラクターを動かすのには苦労しました。私たちのキャラクターはリアリスティックなタッチで描かれているので、日本のアニメのスタイルと違って、鼻がフラットな表現になると違和感が出てしまいます。他にも、ストライプの洋服の接続部分、ソバカスやヒゲといったパーツを自然に動かすのも苦戦しました。それでもうちのアニメーターが早い段階で解決方法を見つけ、それからは思った通りのアニメーションが作れるようになりました。

— アニメーターは何人いるのですか?

Barnabé Anglade氏: 一人だけです。彼女がLive2D Cubismを使った全てのアニメーションを一人で作ってます。彼女はプロジェクトが開始した頃、まだ学校を卒業したばかりで3Dアニメーションの経験しかなかったのですが、彼女から見るとLive2D Cubismは3Dアニメーションのツールとそれほど変わらないらしく、すぐに習得できたようです。

開発風景

— このゲームは隔週で新しいエピソードが追加されていて、急速に進化しているようですね。このゲームそしてチームの今後の展望について教えてください。

Barnabé Anglade氏:まだ確かなことは言えないのですが、一般論として、いったんユーザーに受け入れられたものについてはその期待に応えたいと考えているので、このIPを発展させる可能性も検討しています。また、このゲームを長期的な視点で見ると、ナラティブゲームというジャンルにおいてUbisoftがリーダー的な位置を確立するチャンスを示していると思います。

ゲーム自体については、Live2Dによるアニメーションがクオリティだけでなく制作効率の部分でも大きな付加価値要素だと考えています。今後はいろんな角度やポーズで描かれたキャラクターのアニメーションや、顔のパーツを入れ替えてオリジナルのアバターを作れる機能など、いろいろな可能性を試してみたいです。また、Live2D Euclidも楽しみにしています。私たちのチームはおそらくどこかのタイミングで次のプロジェクトを見据えた研究開発の段階に入るので、その時にLive2D Euclidを使って表現の更なる高みを目指せるか楽しみにしています!

City of Love: Paris
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